車を正常に運転するためには、さまざまな装置が必要です。エンジンとタイヤがついていれば走るわけではありません。特に曲がるという動作は、タイヤを含め大きな負担をかけることがわかっていきました。その問題を解決できたのが、デファレンシャルギアなのです。
デファレンシャルギアとはどのような役割をするのか、構造や故障に関することなども含め解説していきます。
目次
デファレンシャルギアとはなにか
デファレンシャルギアは、車を安全に走らせるためには欠かせないパーツです。ですが、運転しているときにどのように働いているかわからないでしょう。それほど当たり前にスムーズに機能しているからです。どうして車は前に進むのか、曲がるときにはハンドルを切ればいいだけではないというところから、デファレンシャルギアを探っていきます。
車が動力を伝える仕組み
車が前に進む。簡単なようですが、実際にはそう簡単ではありません。
前に進むためのエネルギーはエンジンで作り出します。エンジン内部で燃料を爆発させて発生する力を回転する力に変換し、タイヤに伝え回転させるのです。タイヤは路面との摩擦が生じ、車体は前に進みます。ここまでは運転している人ならなんとなくでも想像がつくでしょう。
もう少し車の動きを正確にとらえていきます。前に進むための車輪の回転は、両方とも同じでなければいけません。右と左で回転に差ができると、まっすぐ進まないからです。
たとえば、同じ時間に右3回転左2回転したとします。タイヤの円周が1mだったと仮定すると、右は3m進みますが、左は2mしか進まないのです。車体は自然に左向きに回転してしまうでしょう。なぜなら右の進む力は速いが左は遅いため、まるでブレーキがかかるように左に引きずられるからです。タイヤの路面に対する抵抗が同じなら、このような状態が起こります。
車が曲がるときのタイヤ
今度は曲がるときのタイヤの力はどうなるか考えてみましょう。
車は後輪駆動で、エンジンからの回転は左右のタイヤに同じように伝わる状態です。ここで左にハンドルを切ったと仮定します。後輪駆動ですので、後ろのタイヤが車を前に押し出そうとしますが、前のタイヤは左に曲がろうとしているのです。タイヤの抵抗が強まり、前輪を引きずるようにまっすぐ進んでしまう可能性が出てきます。もしも、前輪が強く左に曲がろうとしたとしても、次の問題は内輪差です。車のタイヤは左に円を描くように曲がります。このときのタイヤの位置は右側の方が、曲がり角から見ると左のタイヤより遠くにあることはわかるでしょう。半径で見ると右は遠い位置にあり、長い距離を進まないといけないのです。でも、タイヤの回転は同じですので、うまく曲がれない状態ができあがります。
結論として、タイヤの回転が同じまま力が伝えられると、車はまっすぐ進み曲がれない状態です。これでは安全に運転できません。そこで考えられたのが、タイヤの回転を調整するデファレンシャルギアでした。
デファレンシャルギアの役割
タイヤの回転数が同じ状態で曲がろうとするなら、どこかで差を付けなければいけません。これを差分と呼びます。外側は速く内側は遅く。つまり、回転の差を付けることができれば、素直に曲がれます。これを実現させるのが、差分装置デファレンシャルギアの役割です。通称デフとも呼ばれエンジンからの力は伝えますが、差分を吸収して曲がれるようにしてくれます。
デファレンシャルギアは、車を走らせるうえで大事な役割を持つ装置ですが、逆にロックさせる装置も必要となりました。オフロードなど条件下ではデファレンシャルギアが走行を邪魔するからです。
デファレンシャルギアの仕組み
デファレンシャルギアは車には欠かせない存在ですが、どのような仕組みにすれば、差分を吸収できるでしょうか。駆動方式によっても仕組みが違います。目指す結論は同じでも、仕組みはいろいろと作られてきたのです。
駆動方式とデファレンシャルギアの関係
エンジンからの力を回転として伝えていかなければ車は前に進みません。デファレンシャルギアはこの回転をうまく伝えながら、曲がるために調整しています。つまり、駆動軸に対してデファレンシャルギアがなければいけないのです。
FF前輪駆動なら、ミッションケースの中にデファレンシャルギアを収めます。これにより、スペースを省力化できるメリットが生まれました。
FR後輪駆動は、後輪側にデファレンシャルギアがあります。プロペラシャフトを通して力が伝達され、後輪に伝えるからです。
ここで問題なのは4輪駆動の場合です。4WDとしますが、4つのホイール、つまりタイヤが回転しています。そうなると、前と後ろにデファレンシャルギアがなければ、差分が吸収できません。そこで2つのデファレンシャルギアを取り付けるのです。実は後輪に伝えるためにトランスファーと呼ばれる部品を使います。ここにクラッチを使っているのがパートタイム4WDです。
現在主流となっているフルタイム4WDは、センターデフと呼ばれる装置を使い、さらに差分を吸収しなければいけません。高性能を発揮できる代わりに、3つのデファレンシャルギアを持つなど、複雑な構造になるのです。
LSDとはなに?
デファレンシャルギアは、無段階に変動する仕組みを持っています。単純にいえば、左右の回転数の平均は、デファレンシャルギアの内部にあるギアの回転数と同じになる仕組みです。
直進時のタイヤの回転数が右50・左50とするなら、デファレンシャルギアも50です。左に曲がるため、左を40にすると、右は60になります。このときのデファレンシャルギアの回転数は平均値の50となるわけです。
ところが、もしも片側のタイヤがあまり力を伝えられず、空転している状態になるとどうでしょうか。抵抗の少ない方に力が伝わりやすい性質を持つデファレンシャルギアは、大きな問題を発生するのです。
直進したいのに、左タイヤが何らかの理由で空転していると、左100・右0。つまり、路面をとらえていない左タイヤは回転するが、右タイヤは回転せず、前に進まなくなるのです。
レースなどではコーナーリングのときに車の荷重が外側に働き、サスペンションが縮みます。逆に内側は車重が抜けて浮き上がるインリフトと呼ばれる状態になるのです。浮き上がるということは、タイヤは路面をとらえにくく空転します。そうなると、内側は高速回転、外側はあまり回転しない状態ができるのです。浮き上がっている方が高速回転しても、うまく進まないわけですから、ロスばかり出ます。
LSDは、リミテッド・スリップ・デファレンシャルと呼ばれる装置で、内部にクラッチを持っています。左右の回転数を制限するためのもので、インリフトのような状態が起きても、必ず力を伝達するようになるのです。接地している外側にも駆動力がしっかり伝わるため、タイムも伸びる仕組みになっています。
ただし、LSDは普段の走行にはあまり役立ちません。今度は力を伝達することが逆効果になるからです。最小回転半径も大きくなりますし、なによりも高価な部品のため一般車両にはほぼ選択されません。スポーツカーなどには、純正部品として取り付けられることがあります。
機械式LSD
スポーツ走行を主目的とする車に取り付けられることが多いのが、機械式LSDです。LSDにはクラッチが内蔵されますが、これを多版クラッチにして駆動トルクで押し付けるのが、機械式の構造です。強力な効果を発揮するため、市販車では必要がないため取り付けられることはありません。
アクセルを踏んだときに作動する1Way、アクセルオフでも弱い効果がある1.5Way、オン・オフとも働くのが2Wayです。
トルセンLSD
トルクセンシング・リミテッド・スリップ・デフの略がトルセンLSDです。歯車の回転抵抗などを利用した扱いやすいLSDで摩耗の劣化も少なくて済みます。作動音もうるさくないことから純正LSDとして採用されることもあるほどです。
トルセンLSDは登録商標でもあり、なかでもねじ上のウォームギアを使ったAタイプはFRに採用されてきました。斜めのギアを使ったものをBタイプ(ヘリカル)と区別しています。
ビスカスLSD
高粘度シリコンオイルを封入したビスカスカップリングを採用したLSDで、スムーズな動きをすることから純正パーツとして採用されることもあります。シリコンオイルの粘性を利用した方法になるため、内部の温度が上昇すると体積膨張を起こすのが問題です。
デフロックってなに?
デファレンシャルギアは、すべての問題を解決するわけではありません。デファレンシャルギアは、力がかかりにくい方に回転を与えることが目的です。では、片輪が空転していたらどうでしょうか。インリフトではなく、完全に空転していると、接地している側には一切力が伝わりません。
なぜなら左右の平均値をとるのがデファレンシャルギアの仕組みです。仮に左が空転していると、100の力を与え、右は0になります。これが起こりうるのがオフロードや雪道での走行です。そこでデフロックという機構が取り付けられるようになりました。
デフロックすると、デファレンシャルギアは作動しなくなります。左右の回転が同じになるため、まるでトラクターのように進めるのです。もちろん、タイヤの摩耗は速くなりますし、カーブでは曲がれないようなことも出てくるため、切り替え装置を含め使われています。
LSDオイルとチャタリング
機械式LSDはクラッチを内蔵しており、摩擦の問題からも潤滑油として専用オイルを使っています。このオイルが劣化するとLSDの故障の原因となるのです。
LSDは特性上、「バキバキ」という音を立てるときがあります。これをチャタリングと呼びますが、クラッチのような平面な金属の密着によって起こる現象です。ほとんどの場合には、オイルを交換することで収まりますが、チャタリングは正確には故障ではありません。
デファレンシャルギアの故障
デファレンシャルギアが故障すると、さまざまな問題が生じます。症状からも判断できますし、原因がわかれば予防もできるようになるでしょう。
故障したらどうなる?
デファレンシャルギアが故障した場合、左右のタイヤの回転数・速度が狂います。制御下に置かれなくなり、思ったようにカーブが曲がれなくなるのです。まるで減速させられているかのような感覚があったときには、明らかにおかしいと思わなければいけません。
故障したときの症状
異常が発生すると、左右のタイヤの速度が変わることから、曲がるだけでブレーキがかかるような感覚を覚えます。特にハンドルを切る角度が大きくなると、症状ははっきりして止まることさえ出てくるのです。
内部のギアの問題もあり、異音が続くことも出てきます。明らかにかみ合いのお菓子な音などがする場合には、デファレンシャルギアの故障を疑う必要が出てくるでしょう。
原因1 オイル
原因を追究する場合、最初に疑うのがオイルです。デファレンシャルギアには専用のオイルが使われます。このオイルが劣化した場合や漏れているときには交換修理を考えなければいけません。
オイル交換について→https://dpf-dpd.com/wisdom-bag/post-12131
原因2 ベアリング
デファレンシャルギア自体には問題がなくても、組み込まれているベアリングがすり減ると、正常に動作しなくなります。ベアリングは、回転軸を支える大事な部品です。回転の抵抗をできるだけ減らしながら、正しく回るように偏心がかからないようにしています。ところが、ベアリングがすり減ることにより回転の中心が狂い、がたつきや異音が出てくる可能性があるのです。
原因3 それ以外と別の場所
オイルもベアリングも問題がない場合、オイルシールやボルトのゆるみ、ケース自体の問題なども考えていきます。オイル漏れといっても、すぐにはっきりするほど流れ出すわけではありません。ほんの少しずつ漏れていき、内部ではオイルが機能しないほど減っていることも考えられます。専門業者でなければわからないようなことも出てくるため、要注意なポイントです。
デファレンシャルギアのメンテナンス
デファレンシャルギアのメンテナンスとして大事なことはオイル交換です。デファレンシャルギアの場合には、5万kmを目安としています。
オイルが正常な状態を保てれば、ベアリングはそう簡単に劣化しません。逆にオイルが劣化すれば、ベアリングにも負担がかかり、異常を生じる可能性が高まるのです。メンテナンスとして重要な意味を持つため、定期的な点検と交換が欠かせないでしょう。
まとめ
車を安全に確実に走らせるためには、デファレンシャルギアは欠かすことができません。デファレンシャルギアがなければ、曲がることさえうまくいかなくなるからです。
一般車のデファレンシャルギアは、メンテナンスさえしていれば、そうそう壊れるものでもありません。逆にメンテナンスをしないと、故障すると走行に重大な問題を引き起こすかもしれないのです。
日ごろから異音や違和感に注意し、なにかおかしいと思ったら早めの点検を心がけていきましょう。